「現実空間をそっくりそのまま仮想空間で表現し、そこで様々なシミュレーションを行う」と聞くと、ファンタジーのように聞こえるかもしれません。
しかし、現代の様々な技術を駆使し、仮想空間で現実空間を映し出すことが可能になりつつあります。
今回はそんな仮想空間を作り出し、その中でデータ解析や研究をするデジタルツインについてご紹介いたします。
1. デジタルツインとは
デジタルツインとは、現実世界から集めたデータをデジタル化し、デジタルな仮想空間上にまるで双子のように(ツイン)現実世界のデータを再現することです。
みなさんも一度はデジタルツインを目にしたことがあると思います。
例えば、飲食店や美容室などを訪れる際に店舗の位置や周辺の様子を調べたことはありませんか?
Google Mapは、現実空間にある道路や建物をアプリケーションの中に再現するというデジタルツインが活用されています。
デジタルツインという言葉自体は1960年ごろから存在していました。
近年IoTやAIをはじめとする技術の著しい進化から、これまでとは桁違いなスピードと解像度で現実空間を再現できるようになり、実用化が迅速に進んだため再び注目を浴びています。
テストしたい製品や機器などをデジタルツインで再現することで、耐用年数のテストや耐荷重テストなど現実空間では繰り返し実施しづらいテストを仮想空間上で何度も容易にシミュレーションすることができます。
2. メタバースとの違い
「仮想空間と現実社会を組み合わせたサービス」にメタバース*というものがあります。
デジタルツインとメタバースはどちらも仮想空間を活用しているという共通点がありますが、両者の違いはどこにあるのでしょうか?
1つは、仮想空間の作り方に違いがあります。
メタバースは、実際には存在しない部屋を作ったり想像のお店を作ったりと、必ずしも現実世界を再現するとは限りません。
デジタルツインは、現実にある空間を仮想空間にそっくりそのまま再現するので、現実に存在しないものは仮想空間にももちろん存在しません。
もう1つの違いとしては、使用目的が挙げられます。
メタバースは、現実にはない空間でゲームをしたり、会議をしたりと人とのコミュニケーションが目的とされることが多いです。
デジタルツインは、製品の製造過程や時間経過の監視など現実では難しいシミュレーションを実施するために使われることが多いです。
つまり、メタバースは「人とコミュニケーションを取るために使われる、仮想空間」であるのに対し、デジタルツインは「現実ではできない高度なシミュレーションをするために使われる、現実を忠実に再現した仮想空間」であるというところに違いがあります。
*メタバースについてはこちらの「VRの進化系?メタバースとは」をご覧ください。
3. デジタルツインを支えるIT技術
デジタルツインを実現するためにはいくつもの技術が活用されています。
今回はその中でも重要な5つについてご紹介いたします。
IoT
1つ目は「IoT」です。
IoT(Internet Of Things)は、あらゆるモノをインターネットと接続して通信機能を持たせ、モノをインターネットとを相互に制御する仕組みのことです。
デジタルツインでは、IoTで監視カメラやドローンから現実空間にある建物や自動車、家電などからデータが収集され仮想空間作成に役立てられています。
5G
2つ目は「5G」です。
5G(5th Generation)とは、第5世代移動通信システムのことです。
2020年から日本国内でサービス開始された5Gは、大容量データを超高速かつ低遅延に送信できることから、デジタルツイン技術に役立てられています。
AI
3つ目は「AI」です。
AI(Artificial Intelligence)とは、人工知能のことです。
莫大なデータを集めただけでは、活かすことができないので、AIに機械学習をさせデータを分析・予測させます。
CAE
4つ目は「CAE」です。
CAE(Computer Aided Engineering)とは、製品の設計や開発、工程設計の際に事前にコンピューターを使ってシミュレーションをする技術のことです。
デジタルツインでの仮想空間で疑似的に作成した試作品を使いCAEでシミュレーションをすることで、製品の強度や振動の特性、熱伝導などのあらゆる物理現象をリアルタイムで算出し、フィードバックします。
AR / VR
最後5つ目は、「AR / VR*」です。
AR(Augmented Reality)は拡張現実のことで、VR(Virtual Reality)は仮想現実のことです。
仮想空間で行ったデータ解析の結果を、現実空間へフィードバックするためにARやVRを活用します。
デジタルツインで行ったデータ解析の結果を仮想空間で見るために活用されるのがVRで、現実空間に映し出すのがARの役割です。
*ARやVR、XRの違いはこちらの「VR?AR?XRをどれだけ知っていますか?」をご覧ください。
4. デジタルツインで何ができる?
様々な技術を活用しているデジタルツインではどのようなことができるのでしょうか。
デジタルツインでは、あらゆるモノやコトをデジタルな仮想空間で可視化させることができます。
製造現場
例えば、工場などの製造現場で機械のテストを行う際、常に誰かが見ている必要があります。
機械のテストのために遠方から足を運ぶ人も中にはいるでしょう。
デジタルツインを活用し仮想空間で機械の運転や耐久テストを行うことで、起こりえる故障や不具合を、遠方からでもVRなどを使って監視することができます。
機械の稼働状況や生産実績、作業員の行動といったあらゆる情報を収集し、デジタルツインで再現できれば、現場に足を運び検視する必要がなくなります。
渋滞や流行予測
また、渋滞予測や新型ウイルスの拡散などもシミュレーションすることができます。
車や人の渋滞、ウイルスの拡散を現実空間で再現することはかなり困難ですが、道路や車両データ、感染経路から予測を立てることは可能です。
その予測をデジタルツインで仮想空間に反映させることで、現実世界では再現が難しい事象であっても、シミュレーションし、改善策や予防策を考え実行することができます。
5. デジタルツインの活用例
次に、デジタルツインを活用している事例についてご紹介いたします。
シンガポール
世界屈指の人口密度であるシンガポールは、国土全てを仮想空間に再現しようという「バーチャル・シンガポール」を行っています。
人口が多いゆえに都市開発が活発であるため、交通網の渋滞や建設時の騒音が問題となっています。
道路やビル、住宅などを全て仮想空間に3D化し、シミュレーションを行うことで開発計画や渋滞緩和などの政策設計を最適化していくことを目指しています。
日本内閣府
災害の多い日本では、災害に関するデータの時系列的な変化を蓄積、デジタルツイン上で再現し、台風発生時に浸水が想定される地域の割り出しなどができる「CPS4D」というプロジェクトを行っています。
災害が想定される地域はもちろん、被災者数なども出すことで、効果的な災害対策が可能になりました。
トヨタ自動車
トヨタ自動車が2021年から着手している、「Woven City」でもデジタルツインが活用されています。
自動運転やモビリティ、ロボットなどの新技術を仮想空間でシミュレーションし、技術開発や検証を迅速に行える環境づくりに取り組んでいます。
旭化成
旭化成は、2021年から福島にある水素製造プラントにデジタルツインを活用しています。
設備に異常が出たがベテランの技術者が居合わせないという状況でも、デジタルツインを活用し、リモートで対応できる仕組みを作り上げました。
将来的には海外のプラントであっても日本からリモートで支援する仕組みも作り上げていくそうです。
旭化成
ダイキン工業は、エアコンや化学製品を製造している企業です。
2020年よりデジタルツイン上に、製造ライン上に設置された各種センサーから取得した生体データや制御データ、温度・CO2濃度データなどをリアルタイムに反映する新生産管理システムを稼働させています。
デジタルツイン所でイジョ予測を行うことにより、重大なインシデントを未然に防ぐことができるようになりました。
6. デジタルツインのメリット
次にデジタルツインを活用することで得られるメリットについて2つご紹介いたします。
より高精度な予防
従来、製造ラインや製品に何かトラブルが発生した場合、現場からの調査報告や実際の顧客からのフィードバックをもとに、原因の究明と改善が行われてきました。
デジタルツインを活用することで、製造機器の稼働状況を同時に把握することができ、あらかじめ高精度な故障の予測が可能になります。
品質保証
デジタルツインを活用し、現実にかなり近い仮想空間でシミュレーションすることにより、高度なデータ解析ができるため、製品の不具合をあらかじめ特定することができます。
現実空間では限界のあった試作や試験を仮説空間で繰り返し行えるため、品質向上や顧客の満足度アップが期待できます。
リスク・コストの削減
デジタルツインを活用することで、仮想空間での試作や試験が可能になるため、開発または設計の段階でコストを削りやすくなります。
現実空間では限界のあった試作や試験を仮説空間で繰り返し行えるため、品質向上や顧客の満足度アップが期待できます。
さいごに
今回は、現実空間を再現した仮想空間を作り出し、その中で検証やシミュレーションを行うデジタルツインについてご紹介いたしました。
実際にシンガポールでは国をあげて取り組んでいたり、日本でも災害対策に向けてデジタルツインが使われるなど、どんどんデジタルツインが活用され始めています。
現実空間では成しえないデータ解析をデジタルツインでシミュレーションすることで、今までより高度で精密な予測が可能となります。
実際にトヨタ自動車は、2024年に向けてデジタルツインを活用した都市を作成するそうです。
日本でも国外でもさらにデジタルツインの活用が期待できそうですね。
また、デジタルツインとよく似ている「メタバース」についても、実際に作成している様子や詳細をご紹介しているので、併せてご覧ください。
Next >> 次世代のSNS?メタバースについて
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