事業が急拡大する過程において、現場の創意工夫で拡張を続けてきた社内独自のシステムが、やがて運用上の大きなボトルネックへと姿を変えてしまうことがあります。本記事では、年商数十億規模へと事業を広げる専門人材派遣・フィールドマッチング企業が直面した「独自Accessシステムの属人化」や「頻発する制度改定への追従」という切実な課題に対し、アイ・エス・アイソフトウェアー(ISI)がいかにして「言われた通りの現行踏襲」を超え、既存資産と最新ローコード基盤を融合させた持続可能な運用基盤を築き上げたのか、そのリアルな軌跡を紐解きます。
今回のお客様は、資格要件や実務スキルを持つ専門人材を顧客先へ手配・アサインするフィールドマッチング事業を展開し、近年飛躍的な成長を遂げている気鋭の企業です。しかし、事業の成長スピードにバックオフィスの仕組みが追いつかず、運用面で大きな転換点を迎えていました。
同社の中核業務であるスタッフの稼働割り当て、各種手当を加味した請求データ連携、給与計算などの処理は、長年にわたり社内有志が「Microsoft Access」を駆使して構築・運用してきました。現場のニーズに合わせてスピーディに機能を追加できる利点があった一方、度重なる改修によって内部のデータ構造やマクロ処理は極めて複雑化。「特定の担当者でなければメンテナンスができない」という属人化(ブラックボックス化)が進んでいました。
さらに、労務関連の法改正や業界固有の厳格なコンプライアンス要件へ追従し続けるには、社内開発のみでは運用維持が困難になりつつありました。そこで経営陣は、属人化を解消して業務を標準化し、将来的な内製保守のしやすさも見据えて「Microsoft Power Platformを中心としたローコード基盤への刷新」という大きな決断を下されました。
お客様の当初のご要望は、「現場の混乱を避けるため、現行のAccessの画面や機能をそのまま新しいローコード環境に移行したい」というものでした。しかし、ISIはこの「現行踏襲」という進め方に対して、あえて慎重な検討を提案しました。
ツギハギで機能を追加してきたシステムをそのまま新プラットフォームに載せ替えても、長年蓄積された運用の非効率さは解消されません。それどころか、最新ツールの特性に合わない無理な作り込みが発生し、将来的な保守性を損なう懸念があったためです。
私たちは、単に指示通りの機能を実装するだけの受託スタンスを取りませんでした。既存の処理を丹念に紐解きながら、「この集計フローは、現在の業務体制でも必須でしょうか?」「システム外でエクセルなどを併用して手作業で補っている作業を、今回の刷新で一本化しませんか?」と、業務プロセスそのものを研ぎ澄ます逆提案を重ねていきました。
お客様を単なる発注者ではなく、事業を共に強くするパートナーとして捉え、対話を重視したからこそ踏み込めたプロセスです。
実際の開発現場では、机上の設計通りには進まない幾多の実践的なハードルが立ちはだかりました。
最大の関門は、システムの全貌を把握している設計書が存在しなかった点です。長年の運用の中で前任者から引き継がれてきたコードには、現在も使われているのか判別がつかない処理が多数含まれていました。これを推測だけで置き換えることは、請求や給与計算において重大な不整合を招く恐れがあります。
私たちは単にお客様へ確認を丸投げするのではなく、Access内部のプログラムやクエリを解析した上で、「この処理は〇〇の例外ケースに対応するものとお見受けしますが、現在の運用ルールと一致していますか?」と、解析結果を添えた逆提案型のコミュニケーションを徹底しました。事実に基づいた対話を繰り返すことで、不要な処理を整理し、真に必要な業務ロジックだけを抽出していきました。
開発が進む中で、大きな技術的課題に直面します。移行先として選定したPower Appsは柔軟なアプリ開発に強みを持つ一方、提出先ごとに異なる「厳格な指定フォーマットやミリ単位のレイアウト調整が求められる帳票出力」を単独で完全に再現するには、工数やコストが大きく膨らむことが判明したのです。
ここで私たちは、「すべてを新しいツールだけで完結させる」という技術者側のこだわりを手放しました。Microsoft製品群の連携性の高さを活かし、データベースや日々の業務入力はPower Platformで堅牢かつクラウドネイティブに構築しつつ、「緻密なレイアウトが求められる帳票出力機能には、長年実績のあるAccessの仕組みを連携させて活かす」という現実的な着地点を提案しました。
無理なカスタマイズを避け、適材適所で既存資産を活かすこの判断により、開発期間と予算を守りながら、現場の要求仕様を高い精度で満たすことができました。
法制度のアップデートが頻繁に行われる業界であるため、プロジェクト期間中であっても運用ルールの変更や外部連携システム側の改修情報への追従が必要となりました。
この変化に迅速に対応できた背景には、ISIが培ってきた「組織的なサポート体制」があります。担当チーム内だけで悩みを抱え込むのではなく、社内のベテランエンジニアへ知見を仰ぎ、過去の類似事例から得たアプローチを即座に適用するトライ&エラーの風土が、不測の事態においてもプロジェクトを前進させる推進力となりました。
いくつもの技術的・運用的課題を乗り越えて稼働した新基盤は、お客様の日常業務に大きな変化をもたらしました。
単なる「社内の課題解決ツール」として始まった取り組みが、業界全体の業務水準を引き上げる可能性を秘めた「新たな価値創出の土台」へと昇華した瞬間でした。現在もさらなる運用改善や拡張に向け、継続的なパートナーシップのもとで伴走を続けています。
同様の課題を抱える企業のDX責任者様に向けて、本プロジェクトから得られた知見を共有します。
「当初は『長年運用されてきたAccessの全容をどう把握し、破綻なく再構築するか』という難易度の高いスタートでした。しかし、お客様がこちらの解析結果や業務改善の提案に対して非常に前向きに耳を傾けてくださり、一体となって議論を深められたことがプロジェクトを良い方向へ導きました。
帳票出力の要件において、Power Platformの標準機能だけでは対応が難しいと分かった際も、型通りの正論に固執せず『既存のAccessを一部連携させて残す』という現実的な構成を快く受け入れていただけました。
最終的にお客様から『同業他社にも展開していきたい仕組みだ』と仰っていただけたことは、開発に携わったメンバー全員にとって大きな励みです。これからもお客様の事業成長に真に寄与する、柔軟で持続可能なシステム提案を届けていきたいと考えています。」
「何から手を付ければいいか分からない」「自社のシステムが属人化していて現状把握すら難しい」といった段階のご相談でも大歓迎です。どんな些細なお悩みでも、自社に最適な形へと落とし込んでくれるアイ・エス・アイソフトウェアーに、ぜひ相談してみてください。