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2017年6月7日

システム導入による在庫コスト削減プロジェクト事例

在庫管理システムの導入によって、具体的にどうやってコスト削減が実現するのであろうか。今回はグローバル精密機企業でのコスト削減検討を事例に、在庫管理システム導入とコスト削減について解説します。

導入企業の概要

企業:精密機器の製造・販売を行うグローバル企業
商品:パーソナルコンピューター

  • アメリカに本社があり、日本支社では国内向けのマーケティングなどを実施
  • システムはグローバル標準でSAPを採用している
  • 東日本・西日本の2カ所に物流拠点を設け、アフターサービスとして有償/無償の修理を実施。
  • 製造の大部分は台湾で行っている
  • 国内入荷後、動作確認およびOSやメモリー、初期アプリケーションなどオプションの初期設定を行った後に顧客の元へと出荷している
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コスト削減に向けた検討の開始

日本の拠点内には、アフターサービスで使用する部品在庫が保管されています。精密機械のため、ネジのような小さなものから、種類・型番がさまざま存在するハードディスクのようなもの、リチウムイオン電池のように温度・湿度などの保管取り扱いを慎重に行わねばならないものまで、さまざまなジャンル・大きさの部品が存在しています。

システムのリアルタイム・データ連携を強みとしているSAPが採用されているならば、ただちに購買・生産・物流などについて最適なリソース配分が実現するかというと、そう簡単な話ではありません。システム導入による恩恵を享受できるかどうかは、採用する企業の経営者・従業員がいかに活用しているかに左右されるのです。

現場では何かが起こっている

「事件は会議室で起きてるんじゃない! 現場で起きてるんだ!」というのは刑事ドラマの主人公のセリフですが、コスト削減に限らず業務改善やシステム刷新、組織改革などを検討するにあたってはさまざまな方法で現状分析が行われます。

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特に重要なのが「一次情報の取得」です。プロジェクトを発足するぐらいですから、少なくともマネジメント層には何らかの「うまくくいっていない」という課題感があったり、経営数値が悪化しているといった事実をつかんでいると思います。しかし、「みずから言葉にできる」課題がすべてとは限らず、組織内での役職や部門間のしがらみなどで明言できないことがあったり、より大きな根本原因に対して無意識のうちに目を伏せてしまっていることもあります。外部コンサルタントを雇う意義の1つが、経営課題解決のプロフェッショナルから客観的な視点で現状診断を受けられる点です。

まず、コスト削減検討に際して、部品在庫管理を行うロジスティクス・マネージャーに在庫データを共有頂けるようにお願いをすると、データを取得するのに時間がかかるから、、、となかなか情報共有が受けられません。本来業務の繁忙であったり、また自身が管理している経営指標の開示を求められるのは快いことではないでしょうから、出し渋っていたとしてもその感情はわからなくはないのですが、それにしても違和感を覚えました。

そこでデータの取得に時間がかかっている、という点について踏み込んで尋ねてみると、グローバル標準のSAPとは別に、部品在庫を手元で把握するための管理表を作っていてこれを日々更新しているということがわかり、また直近1週間であった部品入庫や修理使用による在庫増減を反映できていないため在庫データの共有がすぐに行えなかった、とのことでした。いったいなぜ、このようなことが起こっているのでしょうか。

それは、日頃から日本で発生しているアフターサービスの修理対応に際して、グローバル標準で使用しているSAPの機能だけでは不十分だったため、日本で個別システム(Access)を開発して管理しているから、ということがわかりました。前々にシステム保守を管轄するアメリカ本社システム部門にリクエストを上げていたものの、改修費用の兼ね合いなどがあってなかなか決裁がおりず、対応するのには数ヶ月以上、時間がかかってしまうということで現場対応を行っているうちに、常態化してしまっていたとのこと。課題認識のズレを、マネジメント層が現場から上手くくみ取れていなかったのです。

動きのない部品在庫

何はともあれ在庫データを入手したことで、今度は品目ごとの在庫分析作業に移ります。余剰在庫が出ていないか、必要な部品に欠品が出ていないか、といった入庫・出庫の動きを確認すると、700近い品目のうちおよそ60%の部品が、直近半年間で修理で使用された実績がなく、にもかかわらず仕入は継続的に行われていることがわかりました。

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マネージャーに確認を行うと一部はアメリカ本社から取り寄せの他では入手ができない特注部品であり、これらは欠品すると困るということで、無くならないように早め多めに依頼をしているとの回答が。品目によっては発注してから納品までのリードタイムが1ヶ月以上かかるそうで、月に1度の在庫棚卸・定期補充では間に合わないことも。日本の現場と、アメリカの本社でちぐはぐな動きをしていることが浮き彫りになりました。

システムだけでない「関係の質」醸成が鍵

どんなに便利なシステムを導入しても、システムの利用者である人・組織が未成熟だとしたら、期待した効果は発揮されない(もしくは半減してしまう)ことが伝わっただろうか。人と人との「関係性の質」が「結果の質」に巡り巡って影響を与えると言うことは、マサチューセッツ工科大学で教鞭をとる、個人と組織の学習についての研究の第一人者であるダニエル・キム氏によってそのメカニズムが明らかにされています。

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国際会計基準や四半期決算開示といった「決算早期化」という世の風潮からも、企業が外部から短期的な成果を求められる傾向は強まっています。継続的に存在していくために利益を出すことが前提の株式会社では、よほど意識しないと「結果の質」ばかりに目を向けがちです。短期的な結果を出すことからは遠ざかるように感じられるかも知れませんが、「関係性の質」の改善に取り組むことは巡り巡って「結果の質」を上向かせ、正のスパイラルが回る組織、持続可能な成長へと繋がります。

日頃から風通しの良い組織作りや、システム導入時に理解を求める啓発活動を心がけたいものです。

コンサルティングファームにてSAP導入・稼働支援に従事した後、独立・起業。現在は「差積化-させきか」によるユニークで持続可能なビジネス・人づくりを支援する事業開発コンサルタントとして活動している。
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