ERP(Enterprise Resource Planning)システムの導入目的は、企業のあらゆる業務プロセスを一元管理し、経営の効率化と意思決定の迅速化を実現することです。しかし、単にERPを導入するだけでは、その真価を十分に引き出すことはできません。
散在するデータを統合し、部門横断でのデータ活用を可能にするためには、全社で共通のコード体系と適切な管理粒度を確立することが不可欠です。
なぜなら、たとえERPシステムを導入しても、各部門が従来のバラバラなコード体系を維持したままでは、集約されたデータから得られる情報に大きな変化はないからです。
例えば、営業部門と製造部門で異なる商品コードを使っていたり、取引先の分類方法が異なったりするケースは少なくありません。この状態では、単にデータを集計しても、部門を横断した正確な商品別収益性や顧客別採算性を把握することは困難です。
逆に言えば、もし各部門が戦略的にコード体系を整合させていれば、異なるシステムを運用していたとしても、見たい粒度で収益を把握することも不可能ではありません。
また、分析に必要なデータの「粒度(細かさ)」も重要な要素です。管理の粒度を細かく設定すれば、より詳細な分析が可能となり、例えば「どの製造ラインで生産された特定の部品が、どの顧客のどの製品に、いくらのコストで組み込まれ、いくらの利益を生んだか」といった深い洞察が得られます。
しかし、詳細な粒度でデータを管理するには、それに見合う情報をデータ入力の都度、正確に与える必要があります。この際、「分析に必要で、かつ現場の入力負担としても対応可能なバランス」が取れていなければ、データ入力が想像以上に大きな負担となり、継続的な運用が困難になるリスクがあるからです。
共通のコード体系と適切な管理粒度が確立されると、以下のような具体的な経営上のメリットが生まれます。
例えば、調達から製造、販売まで、同一のコードや粒度でデータが紐付けられることで、個々の製品が「いくらで仕入れて、いくらで売れて、その取引からどれくらいの利益が出ているか」を正確に把握できるようになります。これまで不明瞭だった間接費(例:製造部門で発生した電力費や消耗品費など)も、製造プロセスや製品に適切に紐付けられるようになり、最終的な損益への貢献度を可視化することが可能になります。
これにより、経営層はどこで利益が出ていて、どこで損がでているのかを明確に把握でき、利益率の低い製品、実は手間ばかりかかる顧客、非効率な販売チャネルを正確に特定できます。その結果、データに基づいた価格戦略の見直し、製品ポートフォリオの最適化、顧客ターゲティングの改善といった迅速かつ的確な経営判断が可能になります。
このように、ERPシステムの導入は、単に新しいシステムを入れることではありません。全社的なコード体系と管理粒度の統一は、ERPがもたらすはずのデータ統合の恩恵を享受し、正確な経営判断を行うための絶対条件となります。
この作業は、多岐にわたる部門間の意見調整や経営戦略との整合性判断が必要となるため、非常に労力を伴いますが、ERP導入の成否を分ける最も重要な課題の一つと言えるでしょう。
ERPの導入を成功させるためには、「部門間の調整」も重要なポイントです。
詳しくは以下の記事をご覧ください。
https://info.isi-grp.co.jp/blog/grandit/organizational-strategy-for-erp